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研究室の目標

見出し h1

持続的な草地利用・家畜生産システムを確立するため、動物と放牧草地生態系の健康を科学する

1. 動物の健康とは

動物の栄養状態が良く、病気に罹患しておらず、ストレスの少なくおいしい肉を生産している状態です。したがって、動物(草食家畜)の健康を調べるために、生理、栄養、飼料、行動、病理、生態と肉質に関する研究を行っています(畜産草地学

2. 放牧草地生態系の健康とは

草原・草地は世界の陸地面積の約40%を占め、家畜の飼料となる草の生産を介して肉や乳の生産の場となっています。草地が劣化することなく持続的に利用され、草原に多様な生物が共存することで生産機能など様々な生態系機能が発揮されている状態です。したがって、草地生態系の健康性を調べるため、放牧草原を構成する牧草-動物-土壌-気候の相互作用を含んだ生態系システムの解明を行っています(生態学)

 

 

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研究内容(Research Programs)

家畜放牧による生態系への影響

(Effects of livestock grazing on grassland ecosystem)

 一般に乾燥草原では家畜の放牧圧が高くなると植物量や種多様性が減少する。これらの減少はさらに(1)虫媒花植物-訪花昆虫間の相互関係の脆弱化を介したポリネーション機能の低下(図、Yoshihara et al. 2008)(2)野生草食獣の食料資源の減少(Yoshihara et al. 2009)、(3)家畜の採食行動上の負荷などを引き起こしていることがわかった(Yoshihara et al. 2009c)。
 その一方で、日本などの湿潤草原では適度な家畜放牧は草地の生産性、生物多様性や飼料価値を維持する上で欠かせないものである(Okada et al. 2012; Furusawa et al. 2013; Yoshihara et al. 2014; Yoshihara 2011; Sasaki et al. 2012; Yoshihara & Furusawa 2017)。

家畜福祉・健康性に関する研究 (Animal welfare and health)
 モンゴルで家畜が利用している4種類の異なる水を子羊に給与する試験を行ったところ、下流水と池の水を給与した羊の飲水量が多く、井戸水は最も少なかった。池の水を給与した羊は増体が良好であったが、下流水を給与した羊は白血球数や病原性大腸菌の感染頭数が増加していた。(Yoshihara et al. 2016). また、北海道の牧場では放牧羊の採食行動と寄生虫の感染が関連することを明らかにし(Yoshihara et al. 2023)、さらに羊の腸内細菌の多様性が健康性を促進することを明らかにした(Kono et al. 2023)。
 ハンドリングストレスがルーメン微生物相の変化を介して牧草消化率の減少をもたらしていた(Yoshihara and Ogawa 2021 )。ウシの音声解析によってストレスの程度を把握することができた(Yoshihara and Oya 2021 )。

生物多様性と草地の生態系(多面的)機能、生態系サービスの関係 (The relationship between biodiversity and ecosystem function and ecosystem service)
 モンゴルの自然草原で植物の種数を操作したプロットを作り、多様性と生態系機能との関係を長期的に調査している(写真)。植物の多様性は生産性やリター分解速度の向上をもたらし、さらに土壌微生物の多様性をもたらしていることがわかった(Sasaki et al. 2017, Yoshihara et al. 2019a)。これは、植物の多様性が高いと根の分布が広がり、土壌水分を効率よく吸収したためと考えられる(Yoshihara et al. 2019b)。

 遺伝子レベルにおいても、牧草の品種を混播して遺伝的多様性を高めると害虫の被害が約半分に減少した(Yoshihara & Isogai 2018)。

 糞虫の種多様性が牛糞中の窒素や炭素の土壌への移行を促進し、牧草の生産性を向上することがわかった (Yoshihara et al. 2015)。

 

 

草原の回復に関する研究

(Research project for grassland restoration)

 モンゴル草原は過放牧や不適切な耕作によって劣化している。そこで、我々は火入れ、低木の植林や小動物を用いてモンゴル草原の回復に挑戦している。火入れは不嗜好性植物の除去、低木は植物の種多様性の上昇、小動物の撹乱は嗜好性植物の回復に効果があることが分かった。(Yoshihara et al. 2015, Yoshihara et al. 2010f, Sasaki et al. 2010, Yoshihara et al. 2009c).

 

​気候変動がモンゴル草原の牧畜に及ぼす影響
 モンゴルでは雪害、温暖化や干ばつ等により伝統的な牧畜が脅かされている。野外温暖化操作実験を行ったところ、温暖化区では牧草の生産性や栄養価が低下していることを確かめた(Sasaki et al. 2022)。しかし、降水量を増加させるとその温暖化の影響は緩和された。(Yoshihara et al. 2022)。また、放牧中の動物(羊)への影響は、バイト速度への影響ははっきりしなかったが、移動速度は低下した(Horie et al. 2022)。初夏の降水パターンが異なる年は、植物の種組成の変化を介して家畜の採食行動や栄養摂取に影響を与えると考えられる。
 モンゴル家畜の冬期死亡を抑えるために放牧ヒツジの行動、エネルギー収支と栄養状態を研究している。冬期間における放牧ヒツジの摂取エネルギー量は 0.84Mcal /day 、消費エネルギー量は 6.23Mcal/day と推定され、実際に血中タンパク質や体脂肪量は大きく減少していたことから、冬季におけるモンゴル家畜の栄養損失はかなり大きいことが証明された (Yoshihara et al. 2021)。 

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野生動物の生態・保全・管理に関する研究
(Wildlife management and conservation)

モウコノウマは、モンゴルで発見された現存する世界で唯一の野生馬です。GIS解析等によりモウコノウマの生息地選択に影響を及ぼす環境要因と生息適地を特定した(Kajiwara et al. 2016). 
 2011年に福島で起こった原発事故によって、放射性物質は土壌から植物等様々な食物連鎖を介して野生動物に移行していることが明らかになった (Fujita et al. 2014)。その結果、イノシシでは差は見られなかったが、ミミズでは低線量地域よりも高線量地域においてDNAの損傷程度が大きかった。

 空間的に不均一な撹乱は環境の不均一性を創出する。環境の不均一性はさらに様々なニッチを創出することにより、多様な生物の共存を促進している。モンゴルの草原では、穴居棲げっ歯類であるシベリアマーモットが、複数の空間スケールで植生や土壌栄養塩の空間的不均一性を増加していた(Yoshihara et al., 2009a, Yoshihara et al., 2010c, Yoshihara et al., 2010d),。特に、マーモットの密度が高い場合(Yoshihara, 2010)、マーモットの巣穴が集合している場合(Yoshihara et al., 2010b)、行動範囲が巣穴周辺に集中した場合に(Yoshihara et al., 2010a)、様々な撹乱の頻度や強度が空間内に共存することで不均一性が創出されていた。


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ヒツジの放牧による多面的利用
東日本大震災によって津波の被害を受けた宮城県岩沼市では未利用において雑草が繁茂している。ヒツジの放牧が除草に極めて効果的であることがわかった(吉原ら 2016). それに加えて、梨園での羊放牧は増体や土壌物理性の改善というメリットはあるのに対し、果樹への食害もなく、農薬や寄生虫による健康被害もなかった(Yoshihara et al. 2021)。
 また、ヒツジの放牧がヒトの心を癒す(ストレスを下げる)ことが証明された(吉原ら 2016, 浦野と吉原2022)。


活動が多くのメディアに取り上げられました。
・朝日新聞デジタル(http://www.asahi.com/articles/CMTW1705130400001.html

NHK(http://www.nhk.or.jp/ashita/support/
・カンブリア宮殿(2016年7月21日放送)


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​空間モデル等を用いた放牧家畜の採食行動と栄養に関する研究
モンゴルの家畜の移動パターン(遊牧民による誘導や家畜による自由意志移動)が、家畜の栄養やエネルギー収支に及ぼす影響を、エージェントモデルによって予測する。

 放牧地の植物種数が多い場合、放牧牛や羊が様々な種類の草を食べることにより、摂取ミネラルバランスを向上する (Yoshihara et al. 2013a, Yoshihara et al. 2013b).
 羊に対する選択採食実験の結果、カビの見えるサイレージはカビ毒は増加していないものの、次第に避けるようになっていった​(Yoshihara and Miyazaki et al. 2023)


 
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肉質とジビエに関する研究
 国産羊肉と輸入羊肉のおいしさを比較するために理化学分析と官能評価を行った結果、国産の方が脂肪が多く、やわらかくておいしいことが証明された(吉原ら2020)。​エコフィード(大豆粕や米ぬか)を与えると、通常の配合飼料に比べて成長が良く、脂質量などが増加した(Yoshihara and Yokoyama 2021)。松阪牛の肉質に血統、飼料、肥育期間や出生地が与える要因を分析した(森田と吉原 2023)。
 野生シカの肉質は、狩猟方法、解体方法、保存方法と食性による影響を受け、ブランドのジビエは保水性の良い柔らかい肉で、官能評価が優れていた(Yoshihara and Akimoto)。



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